サンダンス映画祭で絶賛されたホラー映画「ヘレディタリー/継承」。本作のストーリーに隠されたトリビアの数々を徹底解説します。
1、映画ヘレディタリー(hereditary)のタイトルの意味
英語の「hereditary」には「遺伝的な」、「先祖代々から続くもの」といった意味合いがありますが、それを理解したうえでストーリーを追っていくと、もしやこの話って今に始まったことではなくグラハム家の昔からの問題なのでは?というのが分かるかと思います。
じゃあその先祖から受け継がれてるものって何なのか?というのがこの映画の解くべき謎になっています。
2、ミニチュアが意味するもの
一番最初のシーンでカメラはミニチュア模型の部屋を映し、そこから実際の部屋に視点を変えています。
アニーはその後も病院のベッドで寝ている母のミニチュア、事故に遭ったチャーリーのミニチュアなどを作ります。
あれが意味しているのは、カルト教団、またはキングパイモンにとってグラハム家はミニチュア模型の中の人形にすぎないということです。
グラハム家をどうデザインするかは全ては教団、またはキングパイモンが握っているのです。
3、チャーリーは最初から取り憑かれていた
物語の冒頭で、お父さんが娘のチャーリーの姿を探しています。ピーターに聞いてもどこにいるか分からないと言います。
そこで庭にあるツリーハウスを見に行くと、そこにチャーリーが寝ているところをお父さんが見つけます。
このツリーハウスはラストシーンの儀式が行われる場所と同じで礼拝堂のような使われ方をしていましたね。チャーリーは最初の時点であの場所に呼ばれていたのでしょう。チャーリーの様子が最初からずっとおかしかったのもそのせいです。
4、エレンの手紙に書かれていたこと
母親が亡くなった直後、アニーは遺品を物色し、その中から一通の手紙を見つけます。そこには次のようなことが書かれていました。
「私の愛しのアニーへ
あなたに色々と言えなかったことを許してね。どうかお願いだから私を憎まないで。
失ったものに対して絶望しないで。最後にはきっとその価値が分かるから。
得られるものに比べたら私たちの犠牲なんてなんでもないわ。
愛をこめて、お母さんより。」
意味深な言葉の中に犠牲を払うことで報われるというカルト教団の教えが伝わってくる内容になっていましたね。
5、謎の光の正体
物語の中で幾度となく現れた光。あれは悪魔、つまりキングパイモンの存在を示すものだといえそうです。
序盤ではチャーリーの部屋にあの光が出現します。チャーリーはあの光に引き寄せられるかのように外に出ていき、裸足で森の中まで歩いて行ってしまいます。その先に見えたのは炎に包まれたエレンの姿。
後半になると、ピーターが同じ光を学校の校舎の中で目撃します。また、ピーターが窓から飛び降りた後、光がピーターの体に降りていくのが見えましたね。あのときキングパイモンはピーターの体に憑依したのです。
6、祖母エレンはクイーンだった
亡くなった祖母エレンはカルト教団の中ではクイーンと呼ばれる存在でした。そのことはラストで「Queen Leigh」と書かれた写真が祭られているところを見ても分かります。「Leigh リー」はホーリーネームのようなものでしょう。
そして教団はキングパイモンの魂を宿す人間の体をずっと探していましたね。キングは魂や幽霊であったことを考えると実質のリーダーはエレンだったと言えそうです。
ちなみに物語の冒頭でエレンの葬式に出席していた人たちはエレンを尊敬する教団のメンバーであった可能性が高いです。アニーが葬式の場で「知らない人にたくさん来ていただいて」と言ったことからも、親族や友人でないことがわかります。
最後の儀式に裸で参加していた人たちもまた教団のメンバーで葬式にいたのと同じ人たちです。
7、パイモンって誰なの?シンボルが意味するもの
パイモンとはキリスト教信者から見た異教を意味するペイガニズムの神話に出てくる王様、または悪魔の一人です。物語の中で何度も登場した謎のシンボルはその悪魔パイモンを表すシンボルだったのです。
魔術の書物と呼ばれる「ソロモンの小さな鍵」などにもパイモンは登場し、しばしば顔は女性で、体は男性として、あるいは姿は女性で中身は男性として描かれています。
それは映画の中でパイモンが男の体を探しつつも女たちの体を行き来していたことにも通じますね。女性たちを狙ったように思えてパイモンの本当のターゲットはもともとピーターだったのです。
8、運命は変えられない
グラハム家が三代に渡って呪われていたのは、もはやコントロールの効かない運命とも呼べるものでした。
その証拠の一つにチャーリーの交通事故が挙げられます。実はあれも起こるべくして起こった事故だったのです。
というのもパーティーに向かう道中、すでにあの電柱にはパイモンの紋章が刻まれていたからです。
9、エレンはチャーリーが男の子であることを望んでいた
パイモンが男の体を望んでいたことから、エレンは自分の娘であるアニーに男の子を生んでもらいたがっていました。
最初に生まれたのはピーター。しかしその頃、アニーは母親を避けていたと話しています。続いて生まれたのがチャーリー。そこで初めてアニーは母親のエレンに自分の子供と接することを許したのです。
そのせいでチャーリーは憑りつかれてしまったのでしょう。ちなみにエレンの遺品の中には名前入りのドアマットがありますが、そこにはチャーリーではなく、チャールズと書かれています。
10、壁の文字が意味するもの
グラハム家の住まいの壁に意味深な文字が書かれているのに気づいたでしょうか。例えばこんな文字です。
- Satony
- Pandemonium
- Liftoach
- Zazas
これらはそれぞれ悪魔を召喚する呪文のようなものです。語源は不明ですが、アリ・アスター監督によると、「Liftoach Pandemonium」には「地獄/カオスを開く」といった意味があるそうです。
そういえばジョーンがアニーに教えた意味不明な呪文も死者を呼び起こすために使われていましたね。
11、儀式の意味
ラストシーンの儀式では一体何が行われていたのでしょうか。あれはキングパイモンの魂をピーターの体の中に移すための儀式で、儀式が完了して初めてキングパイモンの魂が人間の体に宿り、鍵がかかるようになっているのです。
そのことはアニーが段ボールの中から見つけた母の遺品である本にも書かれています。
ちなみに鍵を解くにはまた儀式を行う必要があります。キングパイモンが劇中、いろいろな人の体を行き来していたのは鍵がかかっていなかったからこそできたことなのです。