ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドは、ラストシーンで視聴者の予想を覆す意外な終わり方をするのが特徴です。
しかしあのラストシーンには一体どんな意味が込められているのでしょうか。そこでこの記事ではワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのエンディングについて解説していきます。
なお、ネタバレになりますので、まだ見ていない人はくれぐれもスルーしてください。
タランティーノはもう一つの現実を描く
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドのエンディングを理解するには、クエンティン・タランティーノ監督の映画作りのスタイルを知っておく必要があります。
というのもタランティーノ・タランティーノ監督はこれまでもいくつかの作品で、歴史を基にしたストーリーを描いてきたことがありますが、その度にオリジナルのストーリー、つまりもうひとつの現実を作り上げてきたのです。
例えば、イングロリアス・バスターズでは、第二次世界大戦中のドイツ国防軍占領下のフランスが舞台で、ナチスドイツに復讐を試みるユダヤ系アメリカ人の部隊を描きました。
もちろんストーリーの大部分はフィクションですが、実際にイギリス軍には似たようなユダヤ系の部隊があったことが伝えられており、全くのフィクションともいえないのがポイントです。
また、イングロリアス・バスターズのラストでは、バスターズのメンバーがナチスドイツの指導者であるアドルフ・ヒトラーを映画館の中で殺す描写があり、いわゆる正義の味方であるアメリカ軍が敵を倒す、というハッピーエンディングにしている点においても、歴史とは違った終わり方で、締めくくっているのも特徴です。
一方の「ジャンゴ・つながれざる者」は、ドイツ人賞金稼ぎに助けられた黒人奴隷が生き別れた妻を取り戻す西部劇となっており、アメリカの奴隷の歴史をテーマに取り上げました。
本作で描かれていることについても実際の奴隷の歴史とは異なる点が多々あるといった指摘がありますが、そもそもタランティーノ監督には最初から歴史上で起きたことを忠実に描く気などないのです。
彼にとってはあくまでもフィクションであり、オリジナルのハリウッドスタイルのハッピーエンディングにすることで物語にピリオドを付けることが多いです。
それをふまえたうえで、ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドを見ると、本編でもラストシーンでは、もし女優シャロン・テートが殺されていなかったら、といったもう一つの現実を描いていることが分かるかと思います。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドと現実の違い
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドではラストシーンで、、架空のスタントマン、クリフ・ブースと俳優リック・ダルトンが家に侵入してきた、チャールズ・マンソン率いるカルト教団のメンバーたちを撃退したことで、めでたしめでたし、といったようにハッピーエンディングを迎えます。
それはいわばハリウッドで活躍してきた二人がヒーローとなって、チャールズ・マンソンファミリーという悪の組織をやっつける、ベタな展開だともいえそうですね。
実際チャールズ・マンソンファミリーが侵入した家は、お隣のロマン・ポランスキー監督の自宅でした。
そこにはかつて音楽プロデューサーのテリー・メルチャーが住んでおり、ミュージシャンとしてデビューすることを夢見ていたチャールズ・マンソンとも知り合いだったのです。
物語の中で、長髪のチャールズ・マンソンがテリーはいないかいといって、ロマン・ポランスキー監督の家を訪れる下りがありましたね。実際にチャールズ・マンソンはテリー・メルチャーが引っ越した後もあの家を何度か訪れていたそうです。
ところがミュージシャンとしてデビューできないことが分かるとチャールズ・マンソンはテリー・メルチャーに強い恨みを抱くようになったのでした。
そしてあの家にカルト教団のメンバーを送って、家にいる人たちを殺すように命じたのでした。
事件当時、家の中には妊娠中だった女優シャロン・テートと友人が3名おり、それぞれが殺害されています。つまりシャロン・テートをはじめ、被害者たちは自分たちとは無関係の恨みが発端で、暴走したカルト教団によって命をうばわれてしまったのでした。
タランティーノ監督はこの悲劇を、ハッピーエンディングに変え、せめてフィクションの中だけでも、ハリウッドで輝かしいキャリアを築こうとしていたシャロン・テートの命を救ったのです。
エンディングでは本作のタイトルが表示されるのも一つのポイントです。というのもタイトルのワンス・アポン・ア・タイムは、童話の冒頭で使われる「むかしむかし」といった意味のフレーズだからです。
つまりワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッドは、むかしむかしハリウッドでは、こんなことがありました、というタランティーノ監督が作り上げた、現代の童話ともいえる話だったのです。