多くの視聴者が一度見ただけでは、理解できない映画がクリストファーノーラン監督のSF超大作テネットです。
すでに複数の記事であらすじ、トリビアなどを紹介していますが、この記事ではさらに本作の難しくて見落としがちな細かい設定を解説していきます。
1、順行の人は逆行の人の言葉が理解できない
気づかなかった人も多いのではないでしょうか。そう、実はテネットの世界の中では、時間に対して順行している人は、逆行している人の言葉が理解できません。それに対し、時間に対して逆行している人も順行している人の言葉が同じく理解できない設定になっていました。
テネットについては、多くの視聴者が登場人物が何を言っているのか分からない、という批判があったのは、実は音響の問題だけでなく、会話の多くが逆に流れていたために聞き取れなかったのです。
ちなみに一番最初に主人公が逆行している人間の声をはっきり聴いたのは、エストニアでのカーチェイスシーンです。
あのとき、セイターをはじめ、彼の仲間たちは時間の挟み撃ちをしかけていました。そのときに主人公は、エストニア語を理解できるニールにセイター達の無線を盗聴するように言いましたが、ニールはエストニア語はエストニア語でも逆になっていると言っていましたね。
だからこそ、逆行していたセイターがキャットを車の中で人質に取っていた際に彼は一言も発せずに、指を3、2、1とカウントダウンさせていたのです。なぜなら時間に対して逆行しているセイターが、順行している主人公とニールに話しかけても理解されないからです。
一方で主人公が時間を逆行している最中にオスロ空港に行ったとき、彼は過去の自分自身と遭遇する下りがありました。あのときもよく耳を澄ませて聞くと、未来から逆行してきた主人公は、自分を取り押さえようとしている自分自身とニールの会話を理解できないでいます。
なぜならあのときも逆行している主人公にとっては、順行している過去の自分とニールの言葉は逆に聞こえるからです。
逆行マシーンに二人の自分が映る理由
映画テネットを理解するうえでもう一つ重要なポイントとなるのが、時間の流れを逆にすることのできるタイムマシーンじゃないでしょうか。
ちなみに英語ではあのマシーンはターンスタイルと呼ばれていました。ターンスタイルとは海外の地下鉄の改札などえでよく見かける回転式の扉のことを指します。
地下鉄のターンスタイルは、ガラガラと扉を回転させることで外から駅内へ、あるいは駅内から外へと出ることが可能になります。
一方でテネットおけるターンスタイルは時間が順行から逆行に、または逆行から順行に入れ変わる扉でした。
では一体なぜ物語の中ではいつもある登場人物が片方の扉から入ろうとすると、もう片方の扉から後ろ向きに扉に入ろうとする自分自身が見えたのでしょうか。
それはターンスタイルの反対側には扉をくぐった後の数十秒後の自分自身、あるいは扉をくぐる前の数十秒前の自分自身が映っていたのです。
図で説明するとこうなります。Aの自分が赤いの順行の部屋からターンスタイルに入ると、扉が回転し青い逆行の部屋から出ることになります。
Aの部屋に入ろうとしていた自分は窓越しに、その直後にBの部屋から出ようとしていた自分の姿を見ていたのです。
反対側の自分がいつも後ろ向きで部屋に入る、あるいは部屋から出て行こうとするのは、順行している人間にとっても逆行している人間にとっても、反対側の時間の流れを行く人間は全て逆に見えるからです。
また、主人公とニールが一番最初にオスロ空港に行ったときに空っぽのマシーンから突然、未来の主人公が二人出てきたのは、順行にしている人間の目線からすると、まるで原因より結果が先に起こっているかのように見えるからです。
ファイナルオペレーションの目的
本作において、最も目的が理解しずらいオペレーションが最後にテネットの軍隊が遂行した時間の挟み撃ち作戦じゃないでしょうか。逆行してくる青チームと、順行していく赤チームが力を合わせて戦った、あのオペレーションは一体なんだったのでしょうか。
まず、オペレーションが行われたストルスク12では14日に爆発が起きることは最初から決まっていました。それはかつてイギリス人の情報提供者のクロスビーが主人公に言っていましたね。
一見、あのオペレーションはその爆発を食い止めるものだと考えがちですが、実はそうではなく、爆発を除去するのを失敗するための計画だったのです。
なぜあえて失敗しなければならないのか。それはセイターの計画通りに爆弾が爆発することでアルゴリズムが地下へと埋もれていったと彼を信じ込ませるためだったのです。
一方で主人公とアイヴスの二人はこの作戦に紛れてほかのメンバーには一切事情を話さずに密かにアルゴリズムを奪還しようとしていました。
そうすればセイターは世界中の人々を道連れに死ぬことができた、と勘違いして死んで行くことになるからです。
しかしながら予想外の出来事が起きました。それはセイターが主人公とアイヴスがアルゴリズムを奪いに来ることを悟って、罠をしかけていたからです。爆弾でまず通路の入り口を塞ぎ、アルゴリズムの前に鉄格子で鍵をかけていたのでした。
そしてそれを救ったのがニールです。オペレーションの際に未来から逆行してきていたニールは主人公とアイヴスが入っていった通路の入り口が爆発で塞がれるのを目撃していました。ニールはクラクションを鳴らして警告しましたが、二人は気づかずに通路の中に入っていってしまいます。
そこでニールはストルスク12の地下にあった逆行マシーンの扉をくぐって時間を順行に戻し、車を運転して二人を地下から引き上げようと試みました。
一方で未来のニールは鉄格子の扉を開けて身を呈して主人公を救います。そのおかげで主人公はアルゴリズムを奪い、もう一人のニールに引き上げてもらうことが可能になったわけです。
あのオペレーションのシーンがややこしいのは、シーンごとに順行の目線になったり、逆行の目線になったり、目まぐるしく入れ替わることにあります。つまり必ずしも時系列順にシーンを見せていないために、何が先に起こって、何が後に起こったのかが分からなくなっているのです。
時間軸は一つしかない
テネットを理解するうえでもう一つ重要なことは、テネットにおいては時間軸は一つしか存在しないということです。
一つの時間軸の中で、登場人物が順行するか、逆行するかを選んでいるだけなのです。しかしもしある登場人物が時間を逆行する際には、順行している自分自身を含めて複数の自分自身が存在することになります。
そして順行と逆行を何度も繰り返しているうちに二人どころか三人、四人と自分自身が増えていくのがポイントになっていました。
特にニールの場合は、未来から主人公に雇われて現在にまで来たために少年時代の自分であるマックスも含めて、多くのニールがいました。
それに対し、主人公も順行している主人公と、逆行してオスロ空港に行った主人公、さらに未来から過去の自分を雇っている主人公など、一つの時間軸の中で複数存在しているのが分かります。
そして複数存在している登場人物たちが無限のループの中で助け合うことによって、アルゴリズムを発動させない世界、つまり人類が滅亡しない世界のバランスをなんとか保っていたのでした。
しかしこれにはもちろん多くの矛盾点が含まれます。一度起こったことは必ず起こるならそもそも未来の人間がタイムトラベルをする必要がないんじゃないのか、というのがその一つじゃないでしょうか。
物語の中で親殺しのパラドックスが言及されているように、ある人間が過去に戻って、自分の祖父を殺してしまったら未来の自分自身が存在しないことになるので、そもそも過去に行くことはできない、という理論と同じで、そのパラドックスを映像化したのが、このテネットといえそうですね。
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