映画キャンディマンは1992年に公開された同名映画の続編、またはリメイクともいわれており、多くの接点や共通点があります。それを踏まえたうえでこの記事では映画キャンディマンのトリビアを一挙紹介していきます。なお、ネタバレも含まれますので、知りたくない人、まだ見ていない人はくれぐれもスルーしてください。
オープニング
まずはキャンディマンのオープニングに注目してください。そう、ユニバーサル・ピクチャーズのロゴが左右逆さになって表示されているのです。もちろんこれはキャンディマンが鏡の向こう側に現れるキャラクターであることから、鏡に映したようにロゴも逆さになっていたのです。
オープニングから鏡が意識されているように、本作において鏡は重要な意味合いを持つので鏡に映っているものによく注意を払うと、最初に見たときには気づかないものも見えてくるかもしれません。
キャンディマンの正体
キャンディマンの正体は一体誰なのか疑問に思った人も少なくないはずです。しかし実はキャンディマンとは特定の人を指すわけではありません。物語の中で、ランドリーで働くウィリアム・バークがキャンディマンについて話すシーンがありましたが、キャンディマンは「特定の誰か」ではなく、「蜂の巣全体」そのものを指すと言っていましたね。
本作で最初にキャンディマンとして登場したのはシャーマン・フィールズと呼ばれる黒人男性でした。シャーマン・フィールズは子供たちに飴玉を配ることで知られる人物でしたが、当時飴玉から剃刀が発見される事件が後を絶たなかったためにシャーマン・フィールズが容疑者に挙げられ、警察に無残にも殺害されたのです。
本来なら逮捕され、裁判にかけられ、無罪か有罪かが判断されるところをシャーマン・フィールズは自分を弁護する機会すら与えられずに社会に抹殺されてしまいました。その後も剃刀の事件が続いたことから彼が冤罪をきせられたことが分かりますね。
また、1890年代にはダニエル・ロビタイルという有名な黒人の画家が裕福な白人の家族の娘と関係を持ったことからリンチされ、ハチミツを体中に塗られて蜂に刺さされて死んでしまう事件が悲劇の始まりとして語られています。キャンディマンが登場する度に蜂が飛んでいるのは、このときの伝説が基になっているのです。
ちなみにダニエル・ロビタイルが画家であったように主人公アンソニーもまた画家であるという共通点がありますね。
つまりキャンディマンとは古くから現在までに永遠に続いている負のループを表しており、白人社会に虐げられてきた黒人社会全体を指すともいえそうですね。そしてそれこそがウィリアム・バークが言っていた「蜂の巣全体」という意味でもあるのです。
そしてそんな黒人社会の怒りがキャンディマンという姿を借りて復讐を果たす物語なのです。
ヘレン・ライル
アンソニーとブリアンナは、ブリアンナの弟トロイと彼の恋人と集まった時、トロイからキャンディマンの都市伝説にまつわる怖い話を聞かされる場面がありました。
あのときトロイは、かつてヘレン・ライルという名前の白人の大学院生がいたこと、ヘレン・ライルがカブリーニ・グリーンの調査をしている最中に頭がおかしくなって犬を惨殺し、赤ん坊をいけにえのようにして焚火の中に連れていこうとしては命を落とした、と話していました。
実はあの都市伝説とは、1992年公開のキャンディマンのストーリーをそのままなぞったもので、ヘレン・ライルはヒロインを指しています。
ちなみにヘレン・ライルはストーリーの中で赤ちゃんをいけにえにしたのではなく、むしろ赤ちゃんを助けるために火の中に自ら飛び込み、やけどを負って命を落としたのです。そしてあのときにヘレン・ライルが助けた赤ん坊、それが実は本作の主人公であるアンソニーだったのです。
つまり子供のときからアンソニーはキャンディマンにとりつかれていたと考えるのが自然ですね。
カブリーニ・グリーン
本作で度々会話の中で持ち上がっていた地区といえばカブリーニ・グリーン
です。カブリーニ・グリーンはイリノイ州シカゴのニアノースサイドに実在した公営住宅地区ですが、実情は犯罪や麻薬がはびこるスラム街でした。
そこにはかつて貧困層の多くの黒人たちが集まって暮らしていましたが、2011年を最期に解体され、今では跡地しか残っていないようです。
1992年公開のキャンディマンはヒロインのヘレン・ライルがこのカブリーニ・グリーンを訪れたことでキャンディマンと遭遇し、取りつかれ、最後には命を落としてしまう話になっていましたが、本作ではかつてカブリーニ・グリーンがあった場所に今では高級アパートが建てられ、そこに住むアンソニーがキャンディマンに取りつかれる、というプロットになっていましたね。
つまりこのストーリー構成自体が世代から世代へと受け継がれていく負のループを表していて、白人がある地域に黒人をまとめて住ませたかと思えば、白人の都合でそこを解体し、今度は黒人を出て行かせる、ということを社会的に政策としてやっていたこと伝えているのです。
また、アンソニーも劇中、カブリーニ・グリーンの跡地を訪れ、写真を撮ったりしてはあの場所に強く惹かれていたことが分かりますね。それもそのはず彼はあの場所で生まれていたからです。写真を撮っていた一連の行動はヘレン・ライルが写真を撮っていたのともかぶります。
さらにアンソニーは写真撮影中に蜂にさされたりと後々彼がキャンディマンへと化していく伏線にもなっていました。
アンソニー
カブリーニ・グリーンの跡地を訪れたアンソニーは、そこでランドリーで働くウィリアム・バークに出会い、ウィリアム・バークがキャンディマンと遭遇した時の話を聞かされます。
その話を聞いてますますキャンディマンにのめり込んでいったアンソニーは、自分のアート作品に鏡を採用し、キャンディマンと5回唱えるとキャンディマンを召喚できると説明しました。
そのせいでアートディーラーのクライヴと彼の恋人、またちょうど展覧会に来ていた高校生がキャンディマンを呼んでしまい、殺されることになります。
そのニュースを聞いたときアンソニーは悲しむどころか自分の名前がニュースで取り上げられていることに可笑しくなって笑ってしまう始末でしたね。あのときから彼が正気を失い、徐々にキャンディマンにとりつかれていっているのが分かるかと思います。
日に日に精神的に不安定になっていったアンソニーは以前蜂に刺された傷が広がったことでカブリーニ・グリーンの近くにあるノースサイドの病院を訪れます。すると、初めて訪れた病院でドクターから、あなたはここで生まれたんですよ、と衝撃の事実を聞かされます。アンソニーは自分はてっきりサウスサイドで生まれたとばかり思っていたからです。
病院を出て彼が直行したのは母親のもとです。そのときに登場する母親はほかでもない、1992年公開のキャンディマンに登場したアン・マリーです。ちなみに当時も今回もアンマリー役には同じヴァネッサ・ウィリアムズが起用されています。
母親からアンソニーは自分がかつて連れ去られたことを聞かされます。最初はヘレン・ライルが犯人だと思っていたが、実はキャンディマンの仕業だった。でもキャンディマンから守るために母親はずっとアンソニーにそのことを隠していたのでした。
結局のところアンソニーの運命は赤ん坊のころから決まっていたと言っても過言ではないでしょう。そう彼はキャンディマンに選ばれ、やがてキャンディマンに自分の肉体を乗っ取られる定めだったのです。
物語の終盤では教会でアンソニーがウィリアム・バークに腕を切断され、フックをつけられ、キャンディマンへとさせられるシーンがありました。ちなみにあの教会は以前にアンソニーが写真を撮っていた教会です。
ウィリアム・バークはこう言いました。
この地域はループにはまっている。全く同じ場所で何度も何度も悲劇が繰り返されている。
奴らは自分たちが住むために俺たちの家を壊した。俺たちにはキャンディマンが必要なんだ。
ウィリアム・バークのセリフからもキャンディマンという存在は黒人にとって一種のダークヒーローであることが分かりますね。白人に不当な扱いを受けてきた黒人たちの救世主、それがキャンディマンなのです。
アンソニーは廃墟と化した家の中で、恋人のブリアンナに抱きかかえられながら息を引き取ろうとしていました。そのとき警察が到着し、有無を言わさず突然発砲しましたね。
重傷を負っていたアンソニーは全く無抵抗だったにもかかわらず白人の警察管たちは彼に向って発砲したのです。それはちょうどシャーマン・フィールズがかつて警察に証拠もなしに犯人扱いされて撃たれたのと同じことです。またしても歴史は繰り返されたのです。
キャンディマンと化したアンソニーがパトカーの周りを歩くとき、車のガラスにはアンソニーではなく、過去のキャンディマンの姿が反射して移っていました。それもそのはずキャンディマンは不公正な社会で血を流してきた多くの黒人たちの魂そのものだからです。
以上、映画キャンディマンについてでした。